『地球物語』意訳シリーズ4               2003,11,04
 
   「石の誕生は〈地球の熱〉がもと」と主張した
        ビュホンさんとデマレさん
                            
                         西村寿雄 
 
 みなさんは,上の写真のようながけを見たことがありますか。山で見かけるこのようなごつごつした岩や,そのへんに転がっている石ころは,どのようにしてできたのか,思いをめぐらせてみたことがありますか。
17,18世紀のヨーロッパの人たちも,近くの岩や石ころを眺めては,いろいろ想像をこらしました。そのころは,まだまだ,キリスト教の教えにある〈洪水説〉(この地球上に一度だけ大洪水が起きた)がとなえられていました。ですから,多くの学者は
「石ころや岩石は,大洪水の時に流れてたまった石や泥が,かたく固め られてできたものにちがいない」
と信じていました。つまり,〈世界の石や岩は,洪水によって流されたものがなにかで固められてできたものだ〉というわけです。
 しかし,多くの世の中の学者たちがそのように信じていた18世紀の中頃,パリの植物園長をしていたビュホンさんは,これらとは違う考えを,世に発表しました。
「地球はその昔,熱い熱い火の球で  あった。初め,地球は自分自身の光で輝いていた。けれども,やがて冷えて,全地球は海におおわれ水がすべての山々をかくした。その時,海の中には強い水の流れが起こり,地球の表面に深い谷を掘った。その海水の強い流れが,やがて石ころや砂の層をつくった。」
と言ったのです。ビュホンさんは,たくさんの本を読んで,このような考えをまとめたのです。ビュホンさんは製鉄所を持っている鉱山技師でもあったのです。そこで,地球の成り立ちについても今までからいろいろ考えていたのです。
 ビュホンさんが,〈全世界が火の海でおおわれていた〉とか〈岩石のもとは火の玉であった〉などと言ったものですから、〈この世は神が創造したもの〉とか〈世界に一度だけの大洪水〉を信じていた学者たちは驚きました。でも,ビュホンさんは自信満々でした。
 「地球の岩石の元は〈火〉にある」「かつて地球全体に強い海水の流れがあった」というこのビュホンさんの考えは,「この世に一度だけ大洪水が起きた」という教会の教えに反しました。このことで,教会から呼び出しを受け,ついには自説を書き変えることにもなりました。
 
 このビュホンさんより20年あまり後で生まれた石ころ好きの青年にデマレという人がいました。デマレさんは,このビュホンさんの考えに強い興味を持っていました。
 デマレさんはパンのかけらとチーズを腰の袋に入れてあちこちの岩を見て歩くほどの熱心な石ころの研究者でした。デマレさんは,この地球に火山のあったことを確信していたのです。
 あるとき,フランス南部にあるオベルニという村にデマレさんはやってきました。そして,デマレさんは,村人たちに言いました。
「このあたのり小さい山々は,その昔,灼熱(しゃくねつ)の溶岩を吹き出してい  たんですよ。その溶岩が,山々の斜面にそって,ふもとや川の谷間に 流れだし,それが冷えてかたまったのが,あの岩なんです。」
村の人たちは〈自分たちの土地が昔火山であった〉などと言われても,とても信じられませんでした。
 あるとき,デマレさんは中部フランスの高地を歩き回っていました。そのとき,一部に真っ黒い岩の層にぶちあたりました。
 よく見ると,この岩は,かたくて黒い。そしてその破片には,砂岩などに見られるような砂つぶは,少しも見られませんでした。
 しかも,境目ごとに柱のようになった岩のわれ目が見えるではありませんか。これは,〈前に見たことのある黒い岩だ〉とデマレさんは思いつきました。
 また,別の場所でもデマレさんはこの黒い岩を見つけました。デマレさんは,この岩の端を注意深く見ていきました。するとどうでしょう。薄くなった黒い岩の層が,その奥の噴火口につながっているではありませんか。
 これはもう,地下から出てきた溶岩(ようがん)が固まってできたものと考えられるではありませんか。     
 また,場所によっては,あとから出来てきたこの黒い岩のまわりの岩に,明らかに熱で変化したあとが残っていました。先にできていたまわりの岩が,後からわき上がってきた黒い岩によって熱を受け,変化しているのです。これらから,この黒い岩は熱い溶岩の流れが固まってできたという何よりの証拠だったのです。
 
 このデマレさんの発見によって,多くの岩石は地中の〈火の元〉から出来てきたのだという説が決定的になったのです。今の言葉で言うと,マグマ(マグマだまり)から岩石が生まれてきたという証拠を,このデマレさんが見つけたのです。
 18世紀になると,石炭や鉄を必要とする〈産業革命〉と呼ばれる近代化がイギリスに芽生え始めました。炭坑や鉱山が各地で開かれ,鉱石についての知識も広り,もう地球の〈火の元説〉を疑う人は少なくなったのです。        
               終わり  ◆G.L.leclerc de Buffon (1707〜1788) ◆Nicolas Desmarest (1725〜1815)        

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